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 釜石慕情
釜石慕情
JR釜石駅は乗り換えて、三陸鉄道に乗る。その乗り換え時間を活用して「市立鉄の歴史館」に立ち寄った。わが国初の洋式高炉１４・６�辰竜霏臾老燭鮓�たかったからだ。その昔は薪を燃やし、水車をまわし鉄を造ったから、大量の森林が伐採された。その後、鉄をつくる素材は炭、石炭、コークスと技術の進歩にあわせ変わっていった。が、初期のころは樹木と鉄は抜き差しならない関係にあったのである。
釜石地域は、鉄鉱石による本格的な銑鉄供給にわが国で始めて成功した土地だ。このことから、近代日本の鉄産業をリードしてきた街として知られる。製鉄の歴史は、釜石の歴史でもある。大正から昭和にかけては日本の製鉄の中心から世界の中心へと発展して「世界の釜石」称された時代もある。駅前に大島高任像が建つ。この人は安政4年(1857年)12月1日、わが国初の洋式高炉による連続出銑に成功した人。「近代製鉄の父」と呼ばれる。彼は高炉築造の場所に釜石を選んだ。良質の鉄鉱石が大量に埋蔵されていたからである。釜石の地に隆盛をもたらした恩人である。そして１８５８年、釜石の大橋に初の洋式高炉を完成させたのである。
釜石にはその名を冠した、市民歌、行進曲、小唄、音頭など８曲がつくられた。「日本広しといえども、釜石のほかに例はない」と郷土史家の佐々木義輝さんは、自著に記している。そのさわりからでも隆盛ぶりがわかる。すこしだけ紹介すると
「ハァー 沖で大漁の鴎が招きゃ 街で溶鉱炉の煙が呼ぶ」(くろがね音頭)
「ハァー ゆうべみた夢 大きい夢だ 煙突ズボンで 汽船(ふね)が靴」(釜石音頭)
「鉄の釜石 煙がたえぬ 熱いおもいの 火がたえぬ」(陸中小唄)
「仰げ颯爽 三陸の 太平洋上 隆々と われ等市民の ゆくところ 振興の意気 高らかに おおこの力 釜石市」(市民歌)
これらの歌詞を読めば、往時の釜石の経済、文化、歴史、芸能を含めた「全盛時代のイメージがほうふつとわいてくる」(前出・佐々木さん)。
現在釜石市の総人口に対する高齢者は33％と高い。人口も半減している。それでも現在の釜石港からは、品質の良さでは業界トップの線材を積み出している。さしもの近代製鉄の発祥地も衰退しているのは隠しようがない。街の一角には、噂の「未亡人横丁」もあって、こちらはその響きに郷愁さえ感じる。
JR釜石駅から車で５分ほどのところに「鉄の歴史館」があった。
今の話題といえば、橋野高炉跡を世界遺産にという話題ぐらいか。
駅までの短い時間、タクシーの運転手さんが地元なまりで言った。「製鉄所時代のいいときばかり思いだしていきている。そんでもまんまくえねえで死んだ人いねえ」。この瞬間、いい過去があれば、それだけで幸せなことだと考えた。
絶景と紺碧の海が魅力の陸中海岸であるが、海からくる風はすがすがしく、山のみどりもまた格別の様相で、旅情はを増幅してくれる。
( 2010/08/15 )
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