青森県立美術館の謎
青森県立美術館の謎 とにかくくたびれ困惑する
青森県立美術館は隣接する三内丸山遺跡の発掘現場から着想を得て、外壁の白色が印象的な美術館である。いかにも雪国にふさわしい。シャガールの作品や奈良美智の「あおもり犬」といった巨大作品で全国に名を轟かせている。
この犬が白一色でバカでかい。屋外の天井のない一室に隔離されている。両耳は垂れ、目は閉じたまま。間延びしすぎた顔なのでイヌらしくはない。
じっくりと見ているとかわいいと思えてくるものの。記念の写真をパチリとやって早々に引き揚げるしか芸がない代物だ。
何しろ、このイヌに拝謁するまでが実にたいへんな行程なのだ。何度も階段を上がり、と思ったら下がり、曲がりし、今度は地上に着いたら、また上がる。また同じ道を引き返すのか、道を誤ったのか、と不安になった時、ようやく路地の一角にたどり着き、袋小路の真ん中に、なんとも形容すべきか巨大な白いイヌが一匹いた。
ただそれだけなのである。何もやることもないのでイヌを背景に記念写真を撮り出発点にもどる。
少し考えた。障害者や老人にはとても無理な道のりだろうということ。入り口に、ある程度の説明板がないのは不親切だ。何か設計上のミスか、それともそれが意図的なものなのか、合点がいかない。
もとはと言えば、玄関に入った時から戸惑いがあったのだ。ロッカーなどあるフロアに天井からヒモがぶら下がり、そのさきに漫画本がくくりつけてある。すでに展示が始まっているのだ。
だがそうではない。受付はエレベーターに乗って階下にある。北国で風雨強く吹き込む土地だけにこのような配慮なのか。一階に説明の受付があって、さらに階下にもテーブルがあって、正式な切符売り場である。
常設展は一般250円と安い。企画展は別料金になる。それはいいが、とても戸惑う。左手は常設展、右手は企画展ということは、あとから知った。ともかく、わかりづらい導入である。
何か都会風に洒落ているつもりなのか、それならばそれでいい。案内人もたくさんいるようだから。
ともあれ初めての入館、常設展を探す。なんのことはない。踏み入れた一歩先が目指す常設展示室だ。心の用意もなかったので実に戸惑った。そんな頼りない不安の気持ちのままシャガールの大作に出会ってしまった。
青森県は平成6年、画家マルク・シャガール(1887ー1985)のバレエ「アレコ」の舞台背景画1幕、2幕、4幕の3点購入、これらが展示されているのだ。(第3幕は米国のフィラデルフィア美術館に収蔵されている)。
1942年制作されたものでいずれもテンペラ・綿布で約9×15㍍と超特大の大きさ。この3連だけで一室を占領している。本来は第3幕も一緒に飾られていたら良かった。画龍点睛を欠くといってもいいだろう。
「アレコ」のあらすじはこうだ。若いロシア貴族のアレコは、文明社会に嫌気をさし、自由を求めてジプシー団に加わる。そこで団長の娘ゼンフィラと恋に落ちる。だが浮気な娘は新たな若者に心を移し、嫉妬に狂ったアレコはそのジプシー男をナイフで刺し殺す。娘はそのナイフで自死してしまう。アレコは父親から追放されてしまう。
ロシアの文豪プーシキンの詩「ジプシー」が原作で、これに、チャイコフスキーの音楽が原曲として用いられたもの。シャガールは1941年、ナチの迫害から逃れるためアメリカに亡命、この地で手がけた初の大仕事だった。
もちろん、展示会では、このとき当地青森県出身の馬場のぼるさんの遺作展示もやっていたのだか、ここも上に上がったりし、とにかく順路に不安が先立ち、疲れ切っていた。ほうほうの態で後にした。
( 2009/11/01 )
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