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 大エルミタージュ美術館展,「野原の少女」の普遍性
エルミタージュ美術館の所蔵品はおよそ300万点、絵画コレクションは17000点、今回は油彩画80点が出展されている。ヨーロッパ絵画400年を巨匠達の作品でたどろうという企画である。モネ、ゴーギャン、ルノアール、ピカソならどなたもご存知だ。ギュスターヴ・ド・ヨンゲ、フェルディナン・ロワベ、フランソワ・フラマンとなるといかがだろうか。知らない人も多いと思う。
ルードヴィヒ・クナウスはどうだろう。１８２９年生まれデュッセルドルフ画壇のリーダーとして、またドイツの風俗画家として誰もが認める存在。名は知らなくてもとても印象に残る作品を残している。「野原の少女」はルードヴィヒ・クナウスの作品である。1857年、油彩・カンヴァス、50×61�僉�
この絵が人びとの心を揺さぶり続けたのはなぜか。自然と少女のいる情景が、見るものに何か独特の感情を想起させる。眼を楽しませ、想像をたくましくさせる。
そこには完璧に調和のとれた情景がある。言うなら癒しの世界だ。 多くのコビー作品の存在が人気が高かった証明だ。こうした構図は繰り返し描かれた。
歳をとれば必然的に人生にほころびも生じ悲哀も感じるようになる。そういう時代をまだ持たない少女時代のへの憧れは生涯やむことはない。金貸しの強欲婆さんであってもそんな時代があったはず。
かわいらしいものと命の輝く自然風景、野原全体が少女の引き立て役としての役目を果たしている。野原の湿っぽい空気にとけこんでいる。いかようにも空想の飛翔が可能だ。
この絵もまた、野原の中でしゃがみ込む少女の姿を愛情を込めた筆致で描いている。野の花を摘みとっているかと普通は思う。 左脇に矢車草の花束を抱えている。実際の彼女の右手は雀の羽を掴んでいる。
彼女はなぜに小鳥を捕まえることができたか。そこが何か意外性を感じさせ、物語を想起させる。うっかりすると、彼女は花を摘んでいるようにしか見えないからだ。
少女がとても魅力的に描かれている。これが成功した第一の条件だ。保護者の姿が見えないのはどうしてか。謎は残る。何か寓意が込められているのか。少女がいなければ単なる風景画の域を出なかった。代を越えて大衆に支持された絵である。みな顔に目がいくが衣装や装飾の質感を丁寧に描いている。背景についても遠景、中景、近景と描き分けている。
風俗画家というとき、そこには幾分侮蔑の響きがある。逆に世に知られる有名画家だからといってすべてが傑作とは限らない。風俗画家には原則として失敗作品はない。むしろ多くの作品の中に、時おりとびっきりのものがあるのである。
ドストエフスキーの小説「罪と罰」にこの絵の描写がある。小説のはじめに主人公は老婆の家に下見に行く。出来るだけ家の様子を研究し、記憶しようと考えたのだ。
『家具はすべて古びた黄いろい木製品で、ぐっと曲がった背もたれのある大きな長いすと、その前に置かれた楕円形のテーブルと、窓と窓の間にすえられた鏡つきの化粧台、壁ぎわのいす数脚と、小鳥を持っているドイツ娘を描いた黄いろい額入りの安っぽい絵ーーこれが全部であった』。(米川正夫訳、河出書房新社刊、昭和44年)
安っぽい絵と書かれたのがクナウスの絵である。これは名誉なことなのか。ただ時代の人々の嗜好を反映した絵ということになる。
( 2007/05/01 )
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