 |
 オルセー美術館展,モローの「ガラテア」のひざの美しさ
東京都美術館では「オルセー美術館展ー19世紀芸術家たちの楽園」が東京都美術館で１月２７日〜4月8日まで開かれた。19世紀を代表する画家たちの作品140点が来日。名作を5つのテーマで紹介している。絵画のほか、デッサンや工芸品も展示されていた。
あまりの混みように、説明員の言葉に誘われるまま逆に見てみた。幻想の世界へ。芸術家の生活(アトリエ・モデル・友人)。はるか彼方へ。特別な場所。親密な時間。の順というわけだ。
印象派の時代といってもわずか数十年のことである。会場にはのちに印象派に反発するゼザンヌ、ゴーガン。乗り越えていったスーラーやルドン。ゴッホ、ロートレックは印象派をさらに飛躍させた画家ということになっている。
「オルセー美術館展」は１９９６年、１９９９年、そして今回で３部作の最終章になる。芸術家たちの楽園の意味するものは何か。
１９世紀、印象派の画家たちによって、典型的な独自の風景画が生まれたのは、パリで娯楽を求める市民たち、郊外のセーヌ河畔へ、さらにはノルマンディの避暑地といった市民の憩いの場所だった。
それは都市市民とっての束の間の「楽園」の視覚化である。明るい絵が画けるようになったのはチューブ絵の具が出回るようになり、戸外での制作を後押しした。
明るい外光を描く画家たちの登場が、印象派時代の到来を確かなものとした。水面のゆらぎ、木漏れ日など、瞬間変化する色、光、そして影を画面に写し取る作業を可能にした。画家たちは楽園の住人にふさわしい位置を占めたのだった。
「幻想の世界へ」のコーナーでは都会の喧騒の中にありながらも、不可思議、非現実、夜、死など神秘的な夢想の世界に創作の主題を求めた画家たちが紹介されている。いうならば、内面世界に深く沈潜していった画家の一群である。
なかでもギュスターヴ・モローの「ガラテア」(1880年、油彩、板、85・5×66��)の絵に釘づけになった。
洞窟の中、三つ眼のキュクロプスの巨大な顔、植物が上下左右を囲んでいる。線描にふちどられた奇怪な海の生物である。そしてその中央に優美な裸体をさらしてまどろむガラテアがいる。長い滝のような髪、左腕を首の後ろに上げ、右手の指は宙をさ迷っている。頭部は花の冠をのせて、あとは一糸まとわぬ姿である。そして彼女だけが光輝いている。
ふくよかな肉体で今日的かというとそうでもない。寸胴といってもいい。最大の見ものは両ひざである。上半身はくつろいでいながら、下半身はピタリと閉じ隙をみせていない。眼は閉じているが、視線を意識している。恋の運命についてさまざまに考えさせられる絵である。
怪物の満たされぬ想いはより募ろうというものである。絵のこちら側の鑑賞者も同じ思いになる。ガテリアはキュプロプスと両方から見つめられてどんな気持ちにいるのか。なぜか、女性たちはこの絵の前ではそそくさと通りすぎる。自分と同じようなナルシストの香りをおそれてのことか。そこで男性にとってはじっくりと鑑賞できる珠玉の逸品であった。
( 2007/04/15 )
| |
