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 ようなものには用はない

思えば、初詣で妻が大吉を引いたのがいけなかったのか。銭湯に意義深いドボンを決め込んだところ、溺れてプカプカ浮いた。たらふく湯を呑む。溺れる者は藁をも掴むと言うけれど、自分の逸物を掴んでも栓はない。メタボ・スッポンポンのまま入院した。その1週間の顛末を一席

たまたま居合わせた3人組、その屈強な男性等に湯場から引き上げられた。命の恩人である。だがお礼をいう暇もなく風のように去った。「せめてお名前を」。後で聞いたところに寄ると、救急車サイレンの音を聞くや否や脱兎の如く着替えるとそくさくと去った。入れ墨があったという

たまたま銭湯前に救急車が停車していた。哀れ土左衛門は丸裸にバスタオルをかけられたまま病院に運ばれる。ここでも救護員に励まされゲボゲボゲボと3度湯を吐いた

医者は開口一番「酒を飲んでますね。タバコは吸っていませんか」。それはない。酒はつきあい程度だし、煙草もヤクもやらない。そして「あなたは運がいい」。いつもは空きがない検査機MRIに直行。結果は?異状なし。翌日から検査漬けの毎日。頸部、肺、心臓、肝臓。結果は?異状なし。1週間休み再入院。それでも異状なし。倒れた事実はあるが病名はなし

個人情報秘匿時代ゆえかように今回の結果をみだりに他言しないようクギを刺される。診断書には「尿漏れあり」と。看護士は「絶対安静の身だから」とトイレ行くにも付き添う。看護士コールを押せとうるさい。ただ捺しても直ぐは来ない。患者は我慢しきれないから、漏らす。前立腺弱っているは間違いない

病名がつかないから病気とはいえない。退院の日、主任医師は「立ちくらみのようなものでしょう」だって。病名に「ようなもの」がつくとは恐れ入った。「経過を見たいので3ヶ月後にまた来なさい」と言う。行くもんか

妻は本来は死んでいたかも知れなかった信じている風だ、何事もなく生還できたのは、年末に自分が身代わり不動尊のお札をいただいていたせいだと言う。知るもんか。ええー、お粗末の一席。

( 2016/02/15 )

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