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 原節子の死

 年賀状の季節が近づくと喪中の知らせも舞い込む。すぐ通知がなかったのは周囲の人たちの考えもあろうが故人の遺志によるものだろう。

原節子さんも9月5日に、95歳で他界していた。邦画の黄金期を支えた大女優のフェイドアウトはどう考えるべきか。「出席者は4人、遺影もない秘密葬儀であった」、と週刊誌は報じた。美少女として注目され14歳で銀幕デビューし、ヒロインに。100本以上の映画に出演したものの、42歳で突如引退、その後半世紀を超える隠遁生活に入った。自分の死まで演技したのだろうか。

和製グレタ・ガルボと称されたもののガルボも原節子もご存知ない世代も多いはずだ。世間はミステリアスを好む。永遠の処女、伝説の女優、神話に昇華した人生はいかにもマスコミが食いつきそうな話だ。そのために実にミステリアスな女優像が醸成されてしまった。永すぎる老後は歓迎されない時代である。會田昌江家は2男5女の家系。彼女は末っ子だった。みな長寿で美しい姉妹の血筋である。

筆者の原節子体験は名画座で知った。「安城家の舞踏会」のトップシーンのクローズアップに度胆を抜く。身体は大柄で目鼻口とデカい。当時の女性としては日本人離れした風貌。が、特別の超美人とはいえない。水着姿を見ても現代風の美人ではない。彼女の最大の魅力はその清潔感にある。そして極上の笑顔にある

夜の酒場にも時おり原節子風がいてビールを飲みながら読書している。カクテルをプレゼントすると受けてくれた。声がいい。声の温度は恋の温度か。お嬢さんに乾杯だ。時おり酒とアバンチュールを求めて女ひとりネオン街をふらつく。でもゆきずりの男にはフラつかない。開放感と快感がたまらないとおっしゃる。

よくよく考えるに原節子も罪な女優さんだった。多くの女性にとって幸せのゴールは結婚ではないことを証明してくれたのである

( 2015/12/15 )

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