学生時代、旅行中に立ち寄った北海道の野幌森林公園に、春夏秋冬通い続けてもう30年になる。なにを好き好んでと言われても、また行くのかと言われても好きになってしまったから通い続けられる嬉しさ。何度、この胸の熱い想いの吹きこぼれそうになるのを機中で我慢したことか。

 初めて行った20歳の秋、森の中に歩み入るとそこは黄金色の光が溢れ、光りは箔となり粒子となって舞っていた。辺りは乾いた香ばしい匂いに満ち、見上げれば木々の間の空が青く木の葉は音もなく降り、川はくっきりと澄んで流れていた。ミズナラの木に抱きついてみる。木は暖かくかぐわしくほんとうに心地よい。2,000haの原始林は歩けど歩けど奥深く、カラマツコースに出てみるとカラマツの、針のように細い葉がサアサアと金色の雨のように降っている。遠近すべてにカラマツの雨が降っている。ここにいま居ることに深く感謝している自分がいた。

 各地を旅して歩いても心にはいつも野幌森林公園があった。森に歩けばいつしか心は活気に満ち、体は生まれ変わったように軽く、生きている喜びが源泉から湧いてくる。この森には不思議がある。時間を作っては森に遊び、昼寝をする。心身がちりちりと音立てて苦しい時は僅か2時間、この森で過ごすために飛行機でトンボ帰りをしたことも懐かしい。

 春は芽吹きの誇らしさが、夏は涼やかな青葉が、秋は木立のりりしさがわたしをどんなに勇気づけてくれたことか。冬、ダイヤモンドダストの洗礼を受けたのは見本林観察コースで歩くスキーをしていた時だった。いつしか頬をぬらしていたのは雪だったのだろうか。

 学校を出て、仕事に就いて、結婚して子どもが生まれて、喜びにも悲しみにも遭遇しての50歳になった。あと10年、夫の定年後は通いつめた森林公園近くの札幌に住む準備をしている。帰る所はここだったと深く安堵の思いで毎夜の眠りに就く。


第7回(2000年)のみどり提言賞は、「とっておきの旅を語ろう」「私がつくるならこんな公園」「私の散歩の楽しみ方公開」「バリアフリーへの注文」をテーマに、募集期間〜00/01/31・800通のご応募がありました。
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