初イベント
涌井 雅之
2005年日本国際博覧会会場演出総合プロデューサー・桐蔭横浜大学教授

優しい眼差しに勇気づけられる思い
環境緑化新聞が「みどりの提言」を公募して、既に10年を経た。
11回目を数える今年のテーマは、親しみやすく、「花」「街」「エコ」。これに対し372編もの応募をいただいた。うち一次審査で36編が絞りこまれ、厳正な審査の結果最優秀賞1点の他、2点の佳作が決定した。
一次審査を経た提言は、いずれも生活の中の実感が綴られ、我々専門家の見方とは、一味違う、生活実感に溢れたものであった。
取り分け最優秀賞の「緑のカーテン」は近隣の小学校の、緑の効用を讃え、そうした効用を大都市全てに、と訴えた説得力のある提言であった。佳作2点は、一本の家族の想いを重ねた林檎の木が、砂漠化しやすい現代人の心に潤いと家族の絆を取り戻す光景を。そして子育てに欠かせぬ大量の紙おむつのありがたさの一方、エコライフとしてはと考え込み、排気した紙おむつを畑地に返す等、循環型に出来ないかと訴えている。
そのいずれもに、素直な優しい眼差しを感じた。こうした眼差しが応募者のみならず、人々から消えぬ限り、緑と花に溢れた街とエコ環境の再構築が、まだまだ可能であると勇気づけられる思いがした。


 

松田 武彦
(社)東京都造園緑化業協会理事

順位をつける辛さ痛感
 今回のみどり提言賞は街、花、エコの三つのテーマとなっているが、賞の性格上明確な審査基準があるわけでなく、どのように評価するか苦慮した。そこで、第一に提言賞というからは提言としてふさわしい内容であるかどうか、第二として「この街のここがすき」では地域との関りに主体性と積極性があるか、「私の花のある生活」ではその人の想いが体験的に語られているか、「こんなエコ製品がほしい」では、新しい発想であるかどうかを基準において審査することにしたが、あらかじめ編集部によって36点にセレクトされた作品を読むとそれぞれの思いが込められていて、順位をつけなければならないことの辛さを改めて感じた次第である。私としては、小林さんの「緑のカーテン」は小学生の活動が紹介され、文明の力に頼らず、自然とのふれあいを大切にする子供たちの取り組みが小気味よく語られていたところを高く評価した。最終的にも委員全員の合意により最優秀賞に決定されたところある。佳作2点には、古本さんの「私のりんごの花」、小沼さんの「赤ちゃんと地球にやさしい紙おむつ」が選出されたが、この他にも甲乙付け難い作品が多く大いに難航したのである。
残念ながら選考にもれた作品としては土田さんの「花から得るもの」での、ガソリンスタンドを花で飾ろうとする若人像や、奥山さんの公園の存在価値そのものが「エコ製品」であるとの主張には共感を覚えた。今回審査員の末席で作品を拝読したが、多くの方々が緑・花への愛着をもち、身近な生活の場を通して環境問題を真剣に考え、自ら行動している様子が伝わってきた。緑花関係者の一人として今までに寄せられた多くの提言を参考にさせて頂き、さらにより良い都市環境の改善に努力していきたいと思っている。


 

小杉 左岐
(社)日本造園組合連合会常務理事

受賞されなかった作品にも高い意識
今回選出された3作品に共通するのは、これからの社会に対する課題が詰まっているとい う事です。小林さんの小学生が緑で空間を利用し、自然の風の豊かさを身を持って実践し た姿には共感致しました。子供達や緑の大切さ、自然のありがたみを指導されている担当 の先生にもお会いしたい気持ちです。古本さんは植物が人々へ与える癒しの効果を見直し、 現在の社会問題との関わりの1例として取り上げていました。今の環境の緑を守り、増や したい気持ちで仕事に励んでいますが、それを形にしていく事が私達の役目だと思ってい ます。小沼さんのリサイクル問題も、これからは商品を開発するメーカーが「ものつくり」 を考える時点で考えなくてはいけない課題になっているのは明確です。造園の仕事は昔か ら自然の材料を使い、リサイクルして来ました。受賞されなかった作品にも、多くの課題・ 問題が投げかけられていました。皆さんの環境に対する高い意識から、行政だけでなく、 もっと多くの企業が環境に対する取り組みをしていく必要性を感じました。私共の団体は もともと緑を提供する事によって外部環境に対して貢献しているつもりです。これからも 目先だけでなく、広い視野をもって社会貢献していきたいものです。


 

上田 奈美
日本ハンギングバスケット協会東日本

花と緑の原点にかえる
三つのテーマが与えられ『街』『花』『エコ』それそれの視点で多くの作品に触れることが出来ました。まず『街』では、「街自慢」がたくさん登場。自分の暮らす街を誇りに思うことはとても素晴らしく、こんな風に感じる方が、街を支え発展させていくものと痛感しました。中でも『緑のカーテン』は小学校をあげて植物での壁面緑化に取り組み、エコの観点からも評価できる活動で、先生の指導のもと、小学生たちが苗を育て実践していること、そして、これを誇りに思い「街自慢」として発表してくださる筆者の両方に優秀賞を与えたいと思いました。次に『花』は、花と緑を育てる、又は眺める側の心に訴える温かい感動をうまく表現している作品が多くありました。無人駅に花を飾り人の心を温めてくれるもの、どれもこれも自分のためでなく、その場に行き交う周囲の人のために行動した美しい心がけに、素直に感銘を受けました。そして、『私のりんごの花』は、現代社会において忘れかけている内面的豊かさを地域の人みんなに与えてくれる一本の木の存在を見事に語っておりました。『エコ』では、若いお母さんが子育てに奮闘する中、ゴミとなる使い捨てオムツの量に土に返る方法がないかと考え提案されることに、同じく子育てを経験した母親として同感、本当に実現して欲しいものと心より願います。全体をとおし、どの作品からも花と緑のもつパワーを再認識し、原点にかえるきっかけをプレゼントされました。


 

井上 元
(株)インタラクション社長/環境緑化新聞主幹

審査結果に満足する
結果についてはとても満足しています。
最優秀に選ばれた小林明美さん(東京都板橋区)の作品「緑のカーテン」は表題が秀逸である。子どもたちが通う地元小学校校舎の壁面緑化の取り組み報告であるが、それだけではない。安直にクーラーなどの人工物に頼らず、自然の力を見直す方途を探ることの大切さを声高ではないが、自信をもって訴えている。学校だけでなく都市の建物の屋上や壁が緑に覆われる日を想像するだけで希望が湧く提言である。
佳作2編のうち、古本尚樹さん(札幌市)の「私のりんごの花」は、りんごの生る北限の地で、花をつけ、実をならせる自宅の一本の木から、それを見つめる人たちの声をきちんと受け止めている。懐かしさとやすらぎの時を供する自然の力を上手に分析してくれた。
小沼春香さん(水戸市)の「赤ちゃんと地球にやさしい紙おむつ」は、主婦らしい視点から吸収力と通気性に優れ、畑の肥料にでもなる安価なおむつの開発をうながしたものである。赤ちゃんだけでなく、高齢化の進むなか、赤ちゃんに戻った大人のためにも必需品となるはずだ。それはとりもなおさず自然にやさしい製品となる。
惜しくも入選に届かなかった方にも一言。決してあなたの作品がよくないと言うことではなく、時の運だと思います。11回の審査を担当してそう感じています。今後のご健筆を期待しております。(小紙主幹)


 

矢部 正治
環境緑化新聞編集長

身に沁みた「ありふれた街」への想い
 実感と提言力を第一に拝読させていただいてきた。 今回の入賞作品は、こうした力を備えている。だが、私がもっとも気になった作品は、「そこにある花と緑」という「どのにでもあるような住宅街」と筆者が住む東京・清瀬市の話だ。
 この街のふとみる花や緑に何となく心が和んでいる。誰の日常にも訪れるありふれた感動。そんなありふれた些細なことが、実は大きな社会の基盤を支えているのでは?と投げかける。
循環型社会を目指し、さまざまな取り組みがなされるが、ありふれた日常の繰り返しが現実だ。公共事業も新規事業が注目され、大規模な事業、イベントを盛り上げる。しかし、こうしたありふれた日常の基盤を維持することこそもっとも大切でかけがえのないことだ。防災に役立つ公園もその一つであり、人々の生活をそっと見守るのも緑をはじめとする環境を守り、創造していくのが、環境緑化にかかわる者の役割だと思う。常にトピックを探し続ける身に沁みる作品だった。
そのほか、緑の街づくりが街の安全を守るコミュニティまで広がっていく地域の努力、ガソリンスタンドでの花壇づくり、町内会の花壇で人の目を楽しませるという舞台は異なるが同じ思いの2つの作品、公園コストについて語った作品、雨水利用、学校教材の再利用について語った作品が、特に実感と提言力を伴っていた。今後、紙面上で紹介していきたい。

 


第11回(2004年)のみどり提言賞は、「この街のここが好き」「私の花のある生活」「こんなエコ製品がほしい」をテーマに、募集期間中372編のご応募がありました。